次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)
2016年6月号
No. 170 NAFLD診断における肝の脂肪量と線維化の評価
磯辺 智範/岡本 嘉一/平野 雄二/正田 純一(筑波大学医学医療系)
はじめに
近年,非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)が社会的に注目されている。NAFLDとは,明らかな飲酒歴やウィルス性肝疾患のない脂肪性肝障害の総称である。われわれはNAFLDに対し,MRIを使って脂肪量や線維化の評価を行っている。本稿では,その評価における「AZE VirtualPlace 新NT」(AZE社製:以下,VirtualPlace)の活用法について紹介する。
脂肪量の評価
メタボリックシンドロームの代表的な判定指標に,MRIなどの診断画像を利用して内臓脂肪と皮下脂肪の面積を計測する方法がある。MRIで計測した内臓脂肪の面積や内臓脂肪と皮下脂肪の面積比を利用すると,内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満を鑑別することが可能である。特に,内臓脂肪型肥満では,血糖,血清コレステロール,および中性脂肪等は高値を示し,心臓疾患や高血圧に注意が必要となる。
今回,脂肪量計測を希望した被検者19名を対象に3か月のダイエット(食事+運動療法)を実施してもらい,ダイエットの前後でMRIを撮像し,VirtualPlaceを用いて脂肪量の評価(内臓脂肪と皮下脂肪とに分類)を行った。MRIは,Dixon法により取得した脂肪画像(スライス厚1cm)を使用した。脂肪量の計測は,腹腔がすべて収まる範囲(第9胸椎〜第1仙椎)とするため,第4〜第5腰椎の椎間腔間を解剖学的な基準とし,頭側に20スライス,尾側に3スライスとした。この計測範囲は,内臓脂肪量と心臓疾患のリスク因子の関連性を報告する研究と同一条件である1)。
VirtualPlaceを用いた実際の脂肪量計測手順は以下の通りである。
(1) MRIデータを3Dアプリケーションにて読み込み,横断画像が大きく表示されるようにレイアウトを入れ替える。
(2) 閾値範囲を設定しておおよその脂肪部分を抽出し,マスク画像として更新する(図1 a)。
(3) マルチレイヤー機能を使用し,マスク画像をコピーして登録する(図1 b)。
(4) マニュアル抽出機能を用いて内臓脂肪を除去し,皮下脂肪のみを抽出する(図1 c)。
(5) マルチレイヤー機能を使用し,皮下脂肪を抽出した画像をコピーして登録する。
(6) 「内臓脂肪+皮下脂肪」画像から「皮下脂肪」画像を減算して「内臓脂肪」画像を得る(図1 d)。
(7) 減算して得られた「内臓脂肪」画像において,マニュアル抽出機能を使用して脂肪以外で抽出されている領域を除去する(図1 e)。
(8) 計測ツールを使用して内臓脂肪と皮下脂肪の面積や体積を求める(図1 f)。
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図1 VirtualPlaceによる脂肪量計測手順
a:閾値処理による脂肪の抽出 b:マルチレイヤー機能
c:マニュアル抽出機能による皮下脂肪の抽出 d:画像間演算(減算)
e:マニュアル抽出機能による内臓脂肪の抽出 f:計測ツール
VirtualPlaceを用いて計測した被検者19名における3か月のダイエット前後での内臓脂肪量と皮下脂肪量(いずれも平均値)を図2と図3に示す。内臓脂肪量と皮下脂肪量の両方で,ダイエット後の脂肪量はダイエット前と比較して有意に減少した(p<0.01)。なお,内臓脂肪量と皮下脂肪量は,ダイエット前に計測した全脂肪量(内臓脂肪量+皮下脂肪量)で規格化した。このように,VirtualPlaceを用いたことにより,脂肪量の計測を容易かつ短時間で行うことが可能であった。
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図2 内臓脂肪量の変化
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図3 皮下脂肪量の変化
線維化の評価
T1ρは関節軟骨の評価に広く用いられているが,肝硬変患者の肝臓T1ρ値が有意に延長するとの報告もある2)。われわれも線維化評価のためVirtualPlaceを用いて健常群とNALFD群に対するT1ρ解析を行っており(図4),その中で感じたVirtualPlaceのメリットを紹介する。
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図4 VirtualPlaceによる肝臓T1ρ map
T1ρ値が短いほど青,長いほど赤で表している。aは健常群,bはNAFLD群であり,bでは明らかに赤い部分が多く,T1ρ値が延長していることがわかる。
VirtualPlaceのメリットの1つ目は,解析操作が非常に簡便なことである。具体的には,画像シリーズを選択してマッピングアプリケーションを起動すれば,T1ρとT2を選択するだけで結果を得ることが可能である。この時,シリーズ間の位置ズレ補正なども自動で行われる。これは多忙な臨床現場はもちろん,多数のデータ解析が必要となる研究分野において特に有益である。2つ目は,T1ρ緩和グラフの確認ができることである。T1ρ値は,time of spin lock(TSL)を変化させて撮像した複数の画像の信号強度に対してカーブフィッティングを行って求める。ここで,各TSLの信号強度がきれいにフィッティングされているかを確認できるのがT1ρ緩和グラフである(図5)。このT1ρ緩和グラフから,求められたT1ρ値の信頼性を確認することができる。なお,VirtualPlaceではタブを切り替えるだけで任意の点のグラフを確認できるように設計されており,ユーザーにとっては非常に親切なインターフェイスと言える。
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図5 VirtualPlaceによるT1ρ緩和グラフ
各TSLの信号強度が白線,フィッティングカーブが黄線で表示される。
最後に,MRI装置メーカーから提供されているT1ρ解析ソフトウェア(メーカー製解析ソフトウェア)とVirtualPlaceによるT1ρ値を比較した結果を掲載する(図6)。T1ρ値の低い症例では解析ソフトウェアの違いによる大きな差は認めなかったが,T1ρ値の高い症例ではVirtualPlaceの方がメーカー製解析ソフトウェアより高値を示した。この現象については,MRI装置メーカーおよびAZE社と検討していく予定である。
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図6 T1ρ解析ソフトウェアの比較
まとめ
MRIによる画像診断に加えて本稿で紹介した脂肪量やT1ρ解析を行うことにより,NAFLDの診断能はさらに向上する。この診断能の向上には,簡便な操作で質の高い情報を得られることが重要であり,その点でVirtualPlaceはユーザーの要求に応えていると感じている。臨床のみならず,研究にも役立つアプリケーションを搭載するVirtualPlaceの今後のバージョンアップや新アプリケーションの登場に期待したい。
●参考文献
1)So, R., et al. : Visceral adipose tissue volume estimated at imaging sites 5-6cm above L4-L5 is optimal for predicting cardiovascular risk factors in obese Japanese men. Tohoku J. Exp. Med., 227, 297〜305, 2012.
2)Wang, Y.X., Yuan, J. : Evaluation of liver fibrosis with T1ρ MR imaging. Quant. Imaging Med. Surg., 4・3, 152〜155, 2014.
【使用MRI装置】
Achieva 3.0T(フィリップス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 新NT(AZE社製)