次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)
2018年11月号
No.199 仮想胃透視像による胃がんの浸潤範囲の同定
真山 尚也(医療法人社団昴会 日野記念病院放射線科)
はじめに
胃がんの手術前に撮影する胃透視では,胃がんの大きさや形状を詳しく描写し,胃内視鏡ではわかりにくいがんの浸潤範囲などがわかるように撮影することが大切で,この結果により手術で切除する範囲が決まる。高齢化が進み,当院でも高齢者の手術前胃透視をする機会があるが,スムーズな体位変換が困難な場合が多く,患者負担も大きい。
そこで,臨床に普及している大腸CTの手法で胃についても同様の評価が得られないかと考えた。手術前造影CTスクリーニング時に発泡剤を服用してからCT検査を実施し,「AZE VirtualPlace」(AZE社製)を用いて仮想胃透視像と仮想内視鏡像を作成し,再現性が得られるか検討した。胃透視では,技量により検査の質が変化するが,仮想胃透視像で再現性が得られれば,胃透視検査で体位変換が困難な患者の場合でも,安定した画像が提供できるのではないかと考える。
方 法
1.撮影方法
発泡剤服用の有無で胃壁進展の程度を比較するため,単純CT撮影は発泡剤を服用せずに撮影する。造影CT撮影時に発泡剤を服用してから施行する。単純CT撮影終了後に発泡剤を服用するが,仰臥位の状態での服用は誤嚥などのリスクを伴うため,半坐位の状態で服用するようにしている。また,単純・造影での位置ズレを最小限にするために下半身を固定している。
2.画像処理方法
“大腸解析”を使用し,胃を抽出する。胃は大腸のように全長が長くないので作業時間は数分で完了する。経路探索で自動抽出ができない場合は,手動で噴門部から幽門部へ向かってプロットする。この時点で,仮想胃透視像と仮想内視鏡像が得られる(図1)。
発泡剤服用の状態で撮影する造影CTでは,同時に血管抽出が可能である。大腸解析で抽出した胃と,3Dから抽出した血管をマルチボリュームでフュージョンすれば,血管走行だけでなく病変部分と血管の距離感も把握できる(図2)。
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図1 大腸解析を用いた胃の仮想透視像(a)と仮想内視鏡像(b)
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図2 仮想胃透視像と血管のフュージョン
症 例
●症例1
60歳,男性。黒色便あり。近医から手術目的で紹介となった。内視鏡での所見は,胃体下部〜胃角部後壁〜大彎にBorrmann-2型の進行がん(+)であった。手術前スクリーニング目的の胸腹部造影CTと胃透視の依頼があった。
図3は内視鏡像と仮想内視鏡像の比較画像,図4は胃透視像と仮想胃透視像の比較画像である。仮想像でも実像と同様に,周堤を伴う潰瘍性病変を描出することができた。仮想像の利点は,あらゆる角度から病変部分を観察することが可能となり,正面像,接線像を容易に表示できることである。また,仮想像は組織検査ができないことが大きな欠点になるが,手術前検査として腫瘍の大きさや形状,浸潤範囲を把握することが目的の場合,この欠点はないに等しいと考えられる。図5に切除後のマクロ写真を示す。
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図3 症例1の内視鏡像(a)と仮想内視鏡像(b)
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図4 症例1の胃透視像(a)と仮想胃透視像(b)
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図5 症例1の切除後マクロ写真
●症例2
57歳,女性。過去に胃体上部前壁の 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行している。定期フォローの内視鏡検査にて印環細胞癌の診断となり,手術前の胸腹部造影CTと胃透視の依頼があった。
図6は内視鏡像と仮想内視鏡像の比較画像,図7は胃透視像と仮想胃透視像の比較画像である。仮想内視鏡像でも実像と同様に,中心陥凹を伴うヒダの集中像を描出することができたが,仮想胃透視像では,ある程度のヒダの集中像は描出できているが,実際の胃透視像には劣っているように感じる。これは,胃粘液がヒダの隙間に入り込みCT値が一体化することで,実際の胃透視像のように鮮明に区別できていないためと考える。図8に切除後のマクロ写真を示す。
大腸解析には,“近傍3D観察”“ポリープ観察”という機能がある。これらの機能を使うことで,胃透視像の粘膜面の評価だけでなく,発泡剤服用と同時に造影剤を使用しているので,胃壁の造影効果の範囲や血管との距離も観察することが可能となる。
別症例ではあるが,図9は近傍3D観察,図10はポリープ観察の各機能を,大腸ではなく,胃で利用した画像である。
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図6 症例2の内視鏡像(a)と仮想内視鏡像(b)
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図7 症例2の胃透視像(a)と仮想胃透視像(b)
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図8 症例2の切除後マクロ写真
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図9 近傍3D観察
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図10 ポリープ観察
まとめ
今回,AZE VirtualPlaceの大腸解析を使用して,仮想胃透視像,仮想内視鏡像を作成し,実際の胃透視像,内視鏡像と目視にて比較検討した。進行がんの場合は,腫瘍の大きさもあることから陥凹部分や,ヒダの集中像もある程度再現できたと考える。しかし,早期がんの場合は,同様に比較検討した結果,早期がんで多いⅡc型病変(わずかな陥凹)は再現することができなかった。原因は,バリウム検査のようにローリングして胃粘膜をバリウムで洗い流すことができないためであり,微細な病変の描出は困難と思われる。
改めて,バリウム検査の奥深さを知るとともに,ワークステーションの画像解析でバリウム検査を超えることができるのか,今後のソフトウェア開発に期待したい。
【使用CT装置】
SCENARIA(日立社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace(AZE社製)