技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2024年9月号

Step up MRI 2024

次世代DLR技術「Precise IQ Engine(PIQE)」がもたらす臨床検査の恩恵

千葉 寿恵[キヤノンメディカルシステムズ(株)MRI営業部]

近年,人工知能(AI)の発展は目覚ましく,医療機器の分野においてもAIを活用した技術が急速に広まっている。弊社は,いち早くディープラーニングを活用した画像再構成技術の開発に取り組み,2019年にSNR向上技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」を製品に搭載した。AiCEはノイズ低減の精度の高さから,国内で多くの施設に導入いただいている(2024年7月現在488台納入)。そして,2023年にAiCEを進化させた超解像技術「Precise IQ Engine(PIQE)」を製品化,2024年には適用シーケンスを拡大したPIQEが,臨床現場において有効的なツールとして広がっている。
本稿では,ディープラーニング技術を活用した超解像技術PIQEがもたらす臨床検査の恩恵について概説する。

■PIQEとは?

PIQEは低空間分解能の画像から高空間分解能の画像を生成するために,ディープラーニングを用いた超解像画像再構成技術で面内の空間分解能を向上させることが可能である。加えて,AiCE同様にSNR向上効果も併せ持つ(図1)。これは,ニューラルネットワークを2つ用いることで実現している(図2)。一般的に,ディープラーニングによる超解像化は,低SNRの入力画像を用いると精度が下がる。そのため,弊社は第1のニューラルネットワークを用いてAiCE を継承したノイズ除去処理を学ばせ,まずはSNRを向上させた画像を取得する。次に,この画像に対してzero-fill interpolation(ZIP)処理を行った画像を生成する。ZIPは,擬似的に見た目の解像度を向上させる手法であるが,期待値ほど分解能が向上しない点やリンギングアーチファクトが発生するといった課題がある。そこで,第2のニューラルネットワークでは,ZIPの課題に焦点を当てた学習をさせている。つまり,PIQEは1つあたりのニューラルネットワークの学習内容を限定的にすることで,精度の高いデノイズとZIP特有のアーチファクトを抑えた高分解能化を実現している。
PIQEはfast spin echo(FSE)やfast advanced spin echo(FASE),echo planer imaging(EPI)など,2Dほぼすべてのシーケンスに適用できる。また,撮像後の画像再構成も可能であり,検査後に必要に応じて画質調整も可能である。このように,PIQEは汎用性が高いことから臨床検査において多用されている。

図1 PIQEの効果

図1 PIQEの効果

 

図2 PIQEの学習モデル

図2 PIQEの学習モデル

 

■PIQEの3つのメリット

1.高分解能画像の実現
MRIの撮像時間と空間分解能は原理的にトレードオフの関係であるが,PIQEを用いることで,撮像時間の延長を必要とせずに面内の空間分解能を最大3倍まで向上させることが可能である。拡散強調画像(DWI)にPIQEを適用することで,高SNRおよび鮮鋭度を向上させた画像が得られており,より細かな病変の描出や浸潤評価の助けになることが期待される(図3,4)。

図3 多発性膵病変(画像ご提供:本城クリニックPET画像診断センター)

図3 多発性膵病変(画像ご提供:本城クリニックPET画像診断センター)

 

図4 下垂体腺腫術後残存腫瘍(画像ご提供:京都大学)

図4 下垂体腺腫術後残存腫瘍(画像ご提供:京都大学)

 

2.撮像時間短縮の実現
収集マトリックスサイズを減らしてもPIQE により分解能を上げることができるため,短時間かつ高分解能な画像が得られる。例えば,頭部ルーチン検査では,高分解能画像を5分以内で撮り終えることができる(図5)。

図5 高分解能5分頭部ルーチン

図5 高分解能5分頭部ルーチン

 

3.撮像選択の自由度を向上
PIQEは,動きに強く,短時間撮像が可能なFASEシーケンスにも適用可能である。息止めが難しい患者に対してFASEを用いることで,息止め時間を短縮することが可能である。または,自由呼吸下で撮像しても,動きのアーチファクトを低減した高画質な画像を提供できる(図6)。このように,患者の状況に応じて画質を落とすことなく,撮像に対する選択肢を広げることが可能である。

図6 自由呼吸下T2強調画像

図6 自由呼吸下T2強調画像

 

■PIQEを生かすべく3Tマグネットを自社開発

PIQEのさらなる活用をねらい,弊社は,画質のカギとなるハードウエアを徹底的に磨き上げた新たな3T MRI装置「Vantage Galan 3T / Supreme Edition(以下,Supreme Edition)」を2024年に製品化した。特に,画質に大きく寄与する静磁場マグネットを自社で開発し,約80kmにも及ぶ超電導コイル配置を1μmオーダで最適化,従来に比べて高い磁場均一性を実現〔0.2ppm→0.05ppm@30cmDSV(typical)〕,最大FOVも拡張した。これらの性能が向上したマグネットとPIQEを組み合わせることにより,例えば,whole spineを,高い空間分解能を維持したまま1分以内で撮像することが可能となる(図7)。マグネットを一新したSupreme Editionは,PIQEなどさまざまなAIソリューションの効果を最大限に発揮させ,より高画質・短時間な検査,より安定した検査を提供する。

図7 1minute whole spine

図7 1minute whole spine

 

本稿では,ディープラーニング画像再構成技術の一つであるPIQEがもたらす臨床検査の恩恵について概説した。マグネットをはじめとした各コンポーネントを自社製にすることで,システム全体の性能向上を図り,PIQEの効果をより強力なものとする。キヤノンメディカルシステムズは「Made for Life」の理念の下,医療のさらなる発展に貢献していく。

*Deep Learning Reconstruction(DLR)
*本記事中のディープラーニング技術については,開発設計段階にディープラーニングを使用しており,本システム自体に自己学習機能を有しておりません。
*病変・症例の記載は医師による診断結果に基づきます。

一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Galan 3T MRT-3020
認証番号:228ADBZX00066000

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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