技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)
2018年9月号
MRI技術開発の最前線
次世代RFコイル:AIRテクノロジー
貝原 雄[GEヘルスケア・ジャパン(株)MRマーケティング]
1990年にPete Roemerにより開発されたフェイズドアレイコイルは,その後技術の発展とともに多チャンネル化,受信のデジタル化を経て広く普及し,臨床検査における画質の向上や撮像高速化に大きな貢献をしてきた。一方,これらの技術発展とともに,フェイズドアレイコイル開発におけるさまざまな設計上の制限や課題を克服する必要が出てきた。
本稿では,新たなRFコイルイノベーションとして期待される“AIRテクノロジー”について紹介する。
■従来型フェイズドアレイコイルとAIRテクノロジーの違い
まず,フェイズドアレイコイルの原理について簡単に触れたい。
通常,複数のコイル素子を単純に横に並べただけでは,それぞれのコイル同士がお互いに電気的干渉(相互インダクタンス)を受けることで,おのおののコイル自身の共鳴周波数が変化し,目的とするMR信号を効率的に受信できない。
しかし,コイル同士にある特定の重なりを持たせて並べることによって,隣り合うコイルからの誘導起電力を打ち消し,電気的干渉を最小限に抑えることができる。これが,基本的なフェイズドアレイコイルの原理である。
現在普及しているフェイズドアレイコイルは,対象とする各部位ごとに最適なコイル素子の形状・大きさ・配置が異なるため,コイルごとに別々の設計が求められ,いわゆる「コイル中心の開発」が必要であった。
さらに,各コイル素子間の一定の重なりという制限のため,チャンネル数が多くなるほど1つのコイルエレメントを小さく設計する必要があり,その結果コイルから近位の信号強度は高いが,遠位のMR信号の感度が不足するというジレンマが生じ,これがさらなる多チャンネル化に向けて大きな障壁となっていた。
一方,AIRテクノロジーは,「コイル素子中心のイノベーション」であり,実際のコイル素子は図1に示すような,INCAワイヤと呼ばれる特殊な細いワイヤと省電力プリアンプのみで構成されている。
コイル素子そのものを根本的に変えることで,エレメント同士の電気的な干渉自体が最小化され,大きさや形状を保ったまま全身領域に自由に重ねて配置することが可能となり,部位ごとのコイル最適化の必要がなくなった(図2)。
その結果,後述するさらなる多チャンネル化やコイルの軽量化など,よりフレキシブルなコイル設計が実現可能となっている。
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図1 AIRテクノロジーのコイルエレメント
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図2 全身領域におけるAIRテクノロジーの適用
■AIRテクノロジーがもたらす臨床アドバンテージ
1.AIR Head Coil
AIRテクノロジーを用いた頭部用コイル(AIR Head)は,48素子で構成されており,従来コイルと比較して,表面部分だけでなくコイル中心部分においても高いSNRが得られている(図3)。この高いSNRを活用し,実際にTOF-MRAを含めたトータル3分の救急用超高速プロトコールの臨床活用例も出てきた。
また,高密度な頭部用コイルであるにもかかわらず,3cmのスペーサーを挿入してもコイル中心部のSNR低下がほとんど見られないことや,背面のエレメントのみで頸部領域の信号感度が得られていること,b=10000の拡散強調画像(以下,DWI)といったイメージングでも高いSNRが得られていることも,AIRテクノロジーによる恩恵と考えられる(図4)。
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図3 AIR Head Coilと従来コイルとの画像比較
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図4 AIR Head Coilによる頭頸部画像
a:AIR Headを用いた頭頸部造影MRA
b:b=10000のDWI
2.AIR Anterior Array(AIR AA)Coil
体幹部や下肢,全身の関節領域で使用可能なAIR Anterior Array(以下,AIR AA)は,前述のAIRテクノロジーのエレメントを30素子配置し,従来の前面コイルと比べると最大約30%SNRが向上*,パラレルイメージングに重要なgファクターも最大56%低減*されている。実際に,single-shot FSEでパラレルイメージングの高速化倍数を2倍から5倍へ上げても画質低下がほとんどない上に,スキャン時間短縮によって肝内血管のブラーリングも低減されており,AIRテクノロジーによって今まで以上に高い倍速でのパラレルイメージング活用が期待される(図5)。
さらに,“SIGNAWorks”の新しいアプリケーションである“MUSE(Phase-SegmentedマルチショットDWI)”を併用することで,体幹部においても高分解能DWIの臨床応用が比較的短時間で得られるようになり,図6のように皮髄境界部のコントラストが明瞭に描出されているのがわかる。
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図5 AIR AA Coilによるさらなる高速スキャンの加速
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図6 MUSEによる体幹部高分解能コロナルDWI
3.検査体験の大きな変化
AIRテクノロジーでは,コイルエレメントそのものが非常にシンプルな要素で構成されているため,結果として60%以上のコイル自体の超軽量化,縦横斜めすべての方向に非常にフレキシブルな形状が実現されている。
特に,AIR AAは,体軸方向に65cmという広い範囲をカバーでき,患者の体格や撮像部位によらず,まるで毛布のように体に掛けるだけでポジショニングが完了するため,被検者側にも大きな負担低減となり,安心して検査が受けられるようになる(図7)。
このフレキシブルな特性から,四肢関節や上腕・大腿・股関節など,どの領域においてもコイルを巻きつけたり曲げたりして,患者の体勢や体形によらず,どの部位でも常に密着したコイルセッティングができるため,検査ワークフローの向上も期待できる(図8)。
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図7 毛布を掛けるような簡便なセッティング
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図8 四肢領域のコイルセッティングの様子
◎
本稿では,次世代RFコイルテクノロジーについて紹介した。このAIRテクノロジーが,技術イノベーションをさらに加速させ,検査ワークフローの向上や患者ごとのテーラーメードで正確な診断,安心かつ快適な検査,というさまざまな観点で医療に貢献できるよう努力する所存である。
*従来コイルとの比較
AIRコイル 3.0T
医療機器認証番号:229ABBZX00123000
48ch Headコイル 3.0T
医療機器認証番号:228ABBZX00152000
●問い合わせ先
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