技術解説(GEヘルスケア・ジャパン)
2024年9月号
Step up MRI 2024
ディープラーニング画像再構成2.0 ─ 画質向上と高速化のアプローチ
名内 存人[GEヘルスケア・ジャパン(株)イメージング本部MR部]
昨今発展が著しい人工知能を応用した技術,特にディープラーニングは,MRIにおいて画像再構成のプロセスに導入することで多くの利点がある。GE HealthCareでは,画質改善のために「AIR Recon DL」を開発し,ノイズ低減だけでなく,複数のメリットを臨床MRIに応用しており,さらに次の展開として,時間方向にディープラーニングのアルゴリズムを用いた「Sonic DL」によって撮像の高速化も実現できるようになった。
本稿では,画質向上に重きを置いたAIR Recon DLと高速化を主目的としたSonic DLの2つのアプローチについて,それぞれを概説し,その臨床的有用性などを報告したい。
■AIR Recon DL:柔軟な画質改善効果
AIR Recon DLは,畳み込みニューラルネットワークを応用してMRIの画像再構成にディープラーニングを適用した技術であり,このネットワークには10万を超える固有パターン認識が用いられている。ノイズの多いデータや低空間分解能のraw dataから,最適解となる高SNRかつ高空間分解能の画像を出力する1)。k-spaceに対して直接的にディープラーニングアルゴリズムを応用することで,AIR Recon DLには,(1) SNRの改善,(2) 画像尖鋭度の向上,(3) トランケーションアーチファクトの低減の3つの恩恵を同時に得ることができる(図1)。
ディープラーニング画像再構成を実画像に適用するか,k-space raw dataに適用するかの違いには一長一短が考えられる。実画像適用型は汎用性が高い一方で,k-space適用型は上記のような3つの効果を同時に得ることができる。本来,AIR Recon DLには撮像シーケンスやコントラストに制限があったが,昨今のさらなる発展によってその適用は2Dから3Dへ,また,体動補正技術としてのPROPELLERや各種定量イメージングに対しても適用可能となり,その適用範囲は拡大し続けている(図2)。さらに,圧縮センシングと比較して,ディープラーニング画像再構成はフェイズドアレイコイルのエレメント配置の依存性が小さく2),「AIRコイル」のような多チャンネル汎用コイルとの親和性も高いため,ソフトウエアとハードウエアの組み合わせがさらに画質向上に相乗効果を発揮する。また,AIR Recon DLはノイズ低減レベルをLow/Middle/Highの3段階で設定することが可能だが,シンプルで直感的に適用しやすいため,容易に臨床に活用しやすいというメリットもある。
AIR Recon DLの臨床的有用性の一例を挙げる。図3は,AIR Recon DLの適用によってthin sliceでの撮像が可能となり,従来はpartial volume effectでスライス間に埋もれていた病変を検出できたという症例である。肝臓の造影ダイナミック検査において,腫瘍の個数はその後の治療方針に大きく影響するため,単に画像がきれいになるだけでなく,臨床的にもより意義のある検査に進化させることができる。
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図1 AIR Recon DLによる3つの効果
(1) SNRの改善(a:従来,b:DL-Low,c:DL-Middle,d:DL-High)
(2) 画像尖鋭度の向上による骨梁の描出(e:従来,f:eと同一raw dataのAIR Recon DL)
(3) トランケーションアーチファクトの低減(g:従来,h:AIR Recon DL)
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図2 体動補正 PROPELLERに適用された AIR Recon DL
a:従来の画像再構成
b:AIR Recon DL PROPELLER T2強調画像
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図3 AIR Recon DL による thin slice 3D LAVA(1.5T)
a:従来の画像再構成 LAVA-FLEX 1.2mm×1.6mm×4.0mm
b:AIR Recon DL LAVA 1.3mm×1.7mm×1.2mm S1に10mm大と4mm大の肝細胞造影相でのEOB取り込み低下あり。4mm大の病変については従来撮像条件のLAVA-FLEXでは描出が不明瞭であるが,AIR Recon DLを併用したthin sliceのLAVAでは拡散強調画像高信号に合致した位置に病変が明瞭に描出されている(→)。
(画像ご提供:刈谷豊田総合病院様)
■Sonic DL:スキャンの高速化とワークフロー改善
これまでも「ASSET」や「ARC」のようなパラレルイメージングおよび「HyperSense」のような圧縮センシング技術など,高速撮像のための複数のアプローチは存在していたが,エイリアシングアーチファクトが生じる可能性やSNRの低下など,いくつかの根源的な問題と切り離すことができなかった。
Sonic DLは,physics-drivenタイプのディープラーニング画像再構成によって,これまでの高速化技術の問題点を克服した加速法で,空間・時間に対してvariable undersamplingされたraw dataに,650万回以上の演算処理によって構築された学習アルゴリズムを適用して画像再構成を行っている。Sonic DLの適用対象として心臓シネ撮像が挙げられ,フルサンプリングされた心臓シネ撮像に対して最大83%のスキャン時間の短縮を実現する。その恩恵により,さまざまな患者状態や病態に対して最適な撮像パラメータを構築することができる。
Sonic DLの臨床的有用性として,以下3点が主に挙げられる(図4)。(1) 画質を維持しながら撮像時間や呼吸停止時間を柔軟に調整できることで,一度の呼吸停止で複数断面の撮像も可能となり,検査時における患者の息止め負担を軽減し,心臓MRI検査のワークフロー改善にも貢献することが期待される。(2) 最短で,1スライスあたり1心拍での撮像も可能となり,不整脈を有する患者に対してブレのない心臓シネ撮像を提供することができる。(3) Sonic DLと呼吸同期技術を組み合わせることで,息止めが困難な患者にも対応できる。本手法については,息止めを行い撮像された従来法の心臓シネ画像と比較して,心機能解析の結果において高い相関を持つと報告されており3),検査困難な状況においてさまざまなニーズに応えるアプローチの一つとして期待されている。また,スキャン時間そのもののみでなく,画像再構成に要する時間も短く,検査枠時間が長くなってしまいがちな心臓MRI検査においてワークフローに与える時間的インパクトも小さく抑えることが可能である。
図5に実際の臨床活用例を示す。虚血性心疾患に対して心臓MRI検査を施行し,心室中隔に遅延造影部位が確認された一例で,心臓シネ画像において,従来法では息止め不良や不整脈の影響で左室全体に画質劣化が見られたが,Sonic DLを用いることで高速化を図り,左室短軸像を取得するために必要な息止め回数も減らすことで,結果として動きの影響を抑えた良好な心臓シネ画像を得ることが可能であった症例である。さらに,3D AIR Recon DLによって,遅延造影撮像においても良好なコントラストが得られている(図5▼)。
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図4 患者状態や病態に応じて最適化したSonic DLの活用例
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図5 虚血性心疾患の症例におけるSonic DLおよびAIR Recon DLの使用例
本稿では,GE HealthCareのディープラーニング画像再構成技術として,AIR Recon DLとSonic DLの2つのアプローチを概説した。画質向上と高速化の両立は,従来のMRIにおける根源的な物理制約であったトレードオフを克服し,さらに柔軟で安定した検査を可能とする。今後は,その適用範囲をさらに拡大させ,MRI検査の質と生産性を向上させていくことが期待される。
●参考文献
1)Lebel, R.M. : Performance characterization of a novel deep learning-based MR image reconstruction pipeline. arXiv : 2008.06559, 2020.
2)Dubljevic, N., et al. : Effect of MR head coil geometry on deep-learning-based MR image reconstruction. Magn. Reson. Med., 92(4): 1404-1420, 2024.
3)Orii, M., et al. : Reliability of respiratory-gated real-time two-dimensional cine incorporating deep learning reconstruction for the assessment of ventricular function in an adult population. Int. J. Cardiovasc. Imaging, 39(5): 1001-1011, 2023.
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