Routine use of TwinBeam Dual Energy in Oncological Field
篠﨑賢治(独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター画像診断科)
<Session Ⅳ Focus on Oncology and Therapy>
2017-11-24
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当センターでは,2016年3月の新病院移転後,シーメンスのSingle Source CT「SOMATOM Definition Edge with TwinBeam Dual Energy」を導入し,Dual Energy CT(DECT)をルーチンで行っている。本講演では,がん診療におけるTwinBeam Dual Energyの適用について報告する。
TwinBeam Dual Energyの原理と特徴
TwinBeam Dual Energyは,1管球から出る120kVのX線を金(Au)と錫(Sn)から成るSplit filterでろ過することで,2つの異なるエネルギーデータを取得できる。金のフィルタからは低エネルギー,錫のフィルタからは高エネルギーのX線スペクトルを同時収集する。FoVが500mmと広く,追加の被ばくがないという特長がある。
読影では,2つのエネルギー画像を合成した120kVのmixed画像を用いるほか,目的に応じて“syngo.via”上で任意の仮想単色X線画像“DE Monoenergetic Plus(Mono+)”やヨードマップ画像,仮想単純画像(Virtual Non Contrast:VNC)を使用している。Mono+画像は,40〜190keVのエネルギーで作成することができ,Low-keVではヨードを高濃度で描出し,High-keVでは金属アーチファクトを低減する。一般的なLow-keV画像はノイズが多いという課題があるが,Mono+では大幅にノイズが低減され,ヨードの増強効果を鋭敏に示す画像が得られるようになっている。
がん診療では,正確かつ高い確信度で病変を同定する必要があるため,鑑別診断と腫瘍の進展度の診断が重要である。一方,造影CT検査では,腎機能障害のある患者に対し,造影剤を低減することも求められる。TwinBeam Dual Energyは,これらを実現し,がん診療に求められる画像が得られる技術である。
Mono+画像の有用性
症例1(図1)は,超高齢者の肝細胞がん症例で,造影剤を大幅に低減して撮影を行った(300mgI/mL造影剤を50mL投与)。同一WL/WWで表示したMono+の50keV画像(図1 b)と40keV画像(図1 c)は,mixed画像(図1 a)と比較して,病変部が高吸収域として明瞭に描出されており,病変を正確に同定できる。
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図1 症例1:肝細胞がん
症例2(図2)は,肺がん転移症例で,胃と肝臓に転移している。Mono+画像(図2 b,c)では,低吸収腫瘤の周辺や周囲の吸収値が上昇し,病変部の同定が容易である。
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図2 症例2:肺がん転移
がん診療では,播種や転移病変にも注意が必要である。症例3(図3)は,胃がんの多発性腹膜播種症例であるが,Mono+の50keV画像(b)と40keV画像(c)では播種が高吸収に描出されており,120kV画像では検出が困難な病変もMono+では容易に指摘することができる。
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図3 症例3:胃がんの多発性腹膜播種
Mono+は,小さな多血性腫瘍の存在診断,進展度診断でも有用である。症例4(図4)は,乳がん症例で,原発巣,乳管内進展については造影MRI(a)が有用だが,Mono+の50keV画像(b)と40keV画像(c)でも明瞭に描出できている。また,症例5(図5)は,喉頭がん症例で,mixed画像(a)では声門の小さな腫瘤が不明瞭であるが,Mono+画像(b,c)では良好に見えている。このことからも,Mono+を追加する意義は大きい。
なお,Mono+では,腎機能保護を目的として,コントラストの上昇を造影剤量の低減として還元することも可能である。がん診療では化学療法や造影CT検査を頻回に受けている高齢の患者も多いので,可能なかぎり造影剤を低減することが重要であり,Mono+の価値は高い。
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図4 症例4:乳がん(乳管内進展)
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図5 症例5:喉頭がん(50keVでWL/WW最適化)
さらに,われわれの施設では,乏血性腫瘍の同定にもMono+を使用している。症例6の膵がん(疑い)症例(図6)では,膵頭部は正常で,膵体部に乏血性腫瘍,膵尾部に閉塞性膵炎が描出されている。Mono+40keV画像(図6 c)では,正常部とがん病変,および膵炎を示す領域の画像コントラストがより明瞭に描出されている。
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図6 症例6:膵がん(疑い)
3mm,WL/WW40/300
ヨードマップ画像とVNC画像の有用性
日常臨床では,例えば肝臓や腎臓の微小な低吸収結節が転移か囊胞かの鑑別に苦慮することがある。このような場合,ヨードマップ画像を作成することで結節のCT値の上昇がヨードの取り込みによるものかを確認することができる。ヨードの取り込みがある場合,囊胞ではなく,肝転移と診断ができる。
症例7は膀胱がん症例(図7)である。VNC画像(図7 a)では尿よりも腫瘍が少し高吸収に描出され,ヨードマップ画像(図7 b)では明らかな造影剤の取り込みを確認できた。さらに,併せて撮影した単純CT画像(図7 c)とVNC画像(図7 a)を比較したところ,遜色のない画像が得られていたことから,被ばく低減の観点からはVNC画像のみにすることも可能と考えられる。
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図7 症例7:膀胱がん(ヨードマップ画像)
症例8の肺がん症例(図8)では,脊髄への浸潤の鑑別が困難なことから,ヨードマップ画像を作成した(b)。ヨードマップでは脊柱管上部のヨードの濃度が高く,下部が低いことから,上部に浸潤していることを明らかにできた。
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図8 症例8:肺がん(脊髄浸潤)
“DE Lung PBV(Lung Perfused Blood Volume”画像は,肺実質のヨードマップ画像とCT画像をフュージョンして,仮想肺血流シンチグラフィ画像も作成できる(図9)。肺動脈の塞栓や腫瘍による肺血流の低下,手術時の残存肺血流量の推定などに有用と考えられる。
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図9 症例9:肺がん(DE Lung PBV画像)
まとめ
がん診療では,腫瘍の同定や鑑別診断,周囲臓器への浸潤診断が重要であり,TwinBeam Dual Energyによって被ばくを増加させることなく,Mono+画像やヨードマップ画像,VNC画像などの有用な情報を追加することができる。また,造影剤量の低減が図れるというメリットもある。
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