技術解説(シーメンスヘルスケア)

2024年9月号

Step up MRI 2024

Make the difference in MRI ─MAGNETOM Cima.X─

神吉 勇佑[シーメンスヘルスケア(株)MR事業部]

神経疾患から腫瘍の病態まで,MRIはさまざまな疾患に対するクリニカルパスにおいて重要な役割を果たしている。特に脳神経領域におけるMRIの有用性は高く,脳腫瘍,脳血管障害,変性疾患など,さまざまな病態の診断に用いられている。さらに,脳の構造的および機能的つながり(connectivity)をマッピングできれば,これまで解明されていない疾患の理解,診断への新たな一歩になる可能性がある。詳細な構造的および機能的つながりを描出する方法として,functional MRIや拡散強調MRIといった撮像法が用いられるが,これら撮像法における画質改善の重要な要素の一つに,MRI装置の持つ傾斜磁場コイルの性能がある。Siemens Healthineersでは,強力な傾斜磁場コイルを搭載した新型3T MRI装置「MAGNETOM Cima.X」を開発し,本邦において販売を開始した。当装置の持つ強力な傾斜磁場コイルを用いることで,特に拡散強調画像の改善が可能であり,体内の微細な構造を高コントラストで描出することができる。本稿では,当装置の最大の特長である強力な傾斜磁場コイルを中心に,MAGNETOM Cima.Xの特徴について紹介する。

■強力傾斜磁場コイル「Gemini Gradients」

MAGNETOM Cima.Xは,従来機「MAGNETOM Prisma」と比較し,2.5倍の強さを誇るGemini Gradientsと呼ばれる傾斜磁場コイルを搭載している。Geminiとは双子の意であるが,2つのGPA(gradient power amplifier)をシンクロさせたMulti-GPA Technologyにより強力な傾斜磁場性能を実現する。Multi-GPA Technologyは,Siemens Healthineersが2010年より,アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)の支援の下,マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)と共同で進めている強力傾斜磁場MRIを用いた脳神経ネットワークマッピングに関するプロジェクト1)の中で開発されたConnectome Scannerに発想を得た技術である。すでに10年以上前からこれら強力傾斜磁場システムの開発に着手し,長い年月をかけて強力な傾斜磁場コイルの製品化を実現した。プロジェクトの中で得られた知見は,Gemini Gradientsに限らず,さまざまな製品機能に反映されており,Siemens Healthineersならではの開発を体現した製品と言える。
強力な傾斜磁場を用いることによる最大のメリットは,非常に高いb値においてもTEを短縮し,SNRの大幅な改善が可能な点である(図1)。これら高コントラストな拡散強調画像の画質向上により,脳の構造的および機能的つながりに関する研究において重要となる脳の複雑な神経線維の描出や,画像の空間分解能を超えるようなマイクロストラクチャの描出などの可能性が広がる。
一方,強力な傾斜磁場を印加することによるデメリットに,傾斜磁場コイルの発熱がある。傾斜磁場コイルを冷却するためにTRは延長し,結果として撮像時間が延長する。このデメリットに対し,MAGNETOM Cima.Xでは,新たな冷却方式「HydroCore Cooling」を採用している(図2)。HydroCore Cooling技術は,傾斜磁場コイル自体を中空導体で設計し,その中に冷却水を通すことで直接的に傾斜磁場コイルを冷やし,冷却効率を大幅に改善した。これにより,高いb値を用いた拡散強調画像の撮像においてもTRを延長することなく,従来機と比較して最大75%の撮像時間を短縮することが可能になった。

図1 非常に高いb値を用いた拡散強調画像(b2000〜b16000)

図1 非常に高いb値を用いた拡散強調画像(b2000〜b16000)

 

図2 HydroCore Coolingを用いた傾斜磁場コイルの冷却

図2 HydroCore Coolingを用いた傾斜磁場コイルの冷却

 

■AIを用いた画像再構成技術「Deep Resolve」

MAGNETOM Cima.Xでは,強力なハードウエア技術を搭載しただけでなく,ソフトウエア技術においても,AIを用いた画像再構成技術Deep Resolveを搭載している。
Deep Resolveは,ノイズ除去を行う「Deep Resolve Gain」から,空間分解能を向上させsuper resolutionを可能とする「Deep Resolve Sharp」,高倍速化した際のノイズを低減する「Deep Resolve Boost」と進化を続けてきた(図3)。これら技術を組み合わせて使用することで,撮像時間を短縮しながら分解能を向上することが可能である。
対応シーケンスはルーチンで多用されるturbo spin echoから,EPI DWI,HASTEにも適応を拡大している。強力なハードウエアGemini Gradientsにより,拡散強調画像の画質改善を実現した当装置を,ソフトウエアDeep Resolveでさらにパワーアップさせることができる。これらハードウエアとソフトウエアの融合により,b16000など従来画像化が難しかった非常に高いb値の撮像も可能となる(図4)。拡散強調画像のみならず,構造画像においても2D撮像にて1.0mmという3D並みの薄さでコントラストの良い撮像を実現するなど,さまざまなメリットが得られる(図5)。

図3 Deep Resolveの進化

図3 Deep Resolveの進化

 

図4 b16000における最新ハードウエアとソフトウエアの融合

図4 b16000における最新ハードウエアとソフトウエアの融合

 

図5 2Dコントラストを保った3D like imaging

図5 2Dコントラストを保った3D like imaging

 

■Clinical translationを活発化させる「Open Recon」

MRIにおける近年の発展は,画像再構成技術の進歩によりもたらされているものも多い。しかし,研究領域で有用とされる画像再構成技術を実際の臨床に応用する際には,依然として煩雑な作業が必要である。
従来,研究用にカスタマイズしたアルゴリズムを用いて画像再構成を行う場合,撮像したMRIのraw data を装置外にエクスポートし,アルゴリズムがインストールされている別のPCにて画像再構成を行い,DICOM規格に変換した画像データを再度装置側に取り込むという手順が必要であった。対してMAGNETOM Cima.Xでは,Open Reconと呼ばれる新たな再構成プラットフォームを用いることができる。
Open Reconは,研究用にカスタマイズした画像再構成アルゴリズムをあらかじめ装置の画像再構成ユニット(MaRS)内に適切なプロセスでインストールすることで,raw dataをエクスポートすることなく,装置内でリアルタイムに画像再構成を行うことのできる技術である(図6)。
これらを用いることで,研究の臨床へのシームレスな適応をサポートする機能として期待できる。さらには,施設間での画像再構成アルゴリズムのやり取りなど,研究領域におけるコミュニティの活性化にもつながると考えている。

図6 Open Recon概略図

図6 Open Recon概略図

 

本稿では,強力な傾斜磁場コイルを搭載した3T装置MAGNETOM Cima.Xを紹介した。MAGNETOM Cima.Xは脳神経領域において特に力を発揮する装置であるが,もちろん全身撮像が可能な装置である。拡散強調画像の高画質化によるメリットは脳神経領域に限らず,泌尿器領域など多岐にわたる領域においてもたらされる可能性がある(図7)。

図7 泌尿器領域における有用性

図7 泌尿器領域における有用性

 

●参考文献
1) Glasser, M.F., et al. : The Human Connectome Project’s Neuroimaging Approach. Nat. Neurosci., 19(9): 1175-1187, 2016.

 

●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1 ゲートシティ大崎ウエストタワー
TEL:0120-041-387
https://www.siemens-healthineers.com/jp/

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