キヤノンメディカルと国立がん研究センターがCT画像を経時的に解析し転移性脊椎腫瘍の脊柱管内浸潤を疑う領域の可視化を支援する技術を共同開発
2025-2-13
発表のポイント
- 骨転移は多くのがん患者で発生し,そのコントロールは患者の生活の質(Quality of Life: QOL)に大きく影響する。特に転移性脊椎腫瘍の脊柱管内浸潤による脊髄圧迫が四肢麻痺や膀胱直腸障害などを引き起こし,QOLを大きく損なった場合,積極的治療が困難となる可能性がある。このため,脊柱管内浸潤を,症状が無い,もしくは軽微な症状の段階で早期診断することが重要である。
- がん治療の経過観察中に定期的に撮影するCT画像を経時的に解析し,画像の変化を差分として出力する技術を応用し,転移性脊椎腫瘍の脊柱管内浸潤の疑いがある領域の可視化を支援する技術を開発した。
- 本技術が脊柱管内浸潤の疑いがある患者の早期診断を支援することで,がん患者のQOLの維持,さらには,予期しない治療中断を避け,患者の予後改善への貢献が期待される。
概要
キヤノンメディカルシステムズ(株)(本社:栃木県大田原市,代表取締役社長:瀧口 登志夫 以下,キヤノンメディカル)と国立研究開発法人国立がん研究センター(所在地:東京都中央区,理事長:中釜 斉)中央病院(病院長:瀬戸 泰之 以下,国立がん研究センター)は,時系列のCT画像の差分から転移性脊椎腫瘍の脊柱管内浸潤の疑いがある領域の可視化を支援する技術を共同で開発した。
転移性脊椎腫瘍により腫瘍が脊柱管内に染み出るように広がる浸潤が起こると,脊髄が圧迫され手足の麻痺や排尿・排便に支障をきたす膀胱・直腸障害などを引き起こし,積極的ながん治療の継続が困難になる上に,QOLが大きく損なわれる。そのため,症状が無い,もしくは軽微な段階で脊柱管内浸潤を診断し,予防や治療を行うことが重要。本技術により脊柱管内の差分を出力し,脊柱管内浸潤の疑いがある領域の可視化を支援することにより,がん患者の治療の継続とQOLの維持に繋がることが期待され,今後,キヤノンメディカルは,本サービスの社会実装に向けて,本技術を搭載した製品の早期市場導入を目指す。
背景
近年の治療の進歩により,多くのがんにおいて進行を抑制し長期生存が得られるようになったが,肺がん,乳がん,前立腺がんなどは骨転移をきたしやすく,それ以外のがん患者でも長期の経過中に転移性骨腫瘍が発生しうるため,患者のQOLに大きく影響する転移性骨腫瘍への警戒が必要である。特に転移性脊椎腫瘍においては,骨破壊や神経障害よって引き起こされる疼痛の緩和を行い,脊髄の圧迫による四肢麻痺・膀胱直腸障害などを予防することが重要。ひとたび脊髄の損傷により完全麻痺になると手術等の治療による神経回復は困難なことも多く,パフォーマンスステータス(PS) 注1が低下し,身体的・社会的な要因から積極的な治療継続が困難となり,結果として予後が悪化する要因となる。また,がん終末期において自分自身で動くことができなくなることは精神的にも多大な影響を及ぼす。
脊髄の損傷による麻痺を予防するためには,転移性骨腫瘍の中でも特に脊椎の転移性骨腫瘍を,症状が無い,もしくは軽微な症状の段階で早期診断し,適切に治療が行えるようにする対策が必要。その対策としてがん診療におけるフォローアップ目的で日々用いられる胸腹部CT検査において早期診断することが重要だが,膨大な画像情報から脊椎の転移性骨腫瘍を遺漏なく診断するのは,従来の画像確認方法では現場の負担が大きくなるという課題があった。
また,キヤノンメディカルの読影支援ソリューション「Abierto Reading Support Solution」の機能であるTemporal Subtraction For Boneは,経時的な位置合わせ技術によって,CTにおける骨領域に対する経時変化の確認を支援することが可能だが,骨外は差分処理の対象外であるため,転移性脊椎腫瘍のなかでも脊髄圧迫をきたすような,脊柱管内の状態を可視化するようなシステムの開発が期待されていた。
研究成果
今回,キヤノンメディカルと国立がん研究センターでは,国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科の中谷 文彦 医長,放射線診断科の三宅 基隆 医長らを中心とし,経時的CT差分画像から,転移性脊椎腫瘍の脊柱管内浸潤の疑いがある領域の可視化を支援する技術を開発した。
がん患者のフォローアップのために定期的に撮影する経時的なCT画像を用いて位置合わせを行い,差分の画像から脊椎・脊柱管の形状を踏まえた情報を用い,腫瘍の脊柱管内への浸潤の可能性がある領域の可視化を支援することができる。
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転移性脊椎腫瘍の脊柱管内浸潤の疑いがある症例での結果
下段中央画像(c)の黄色領域。脊柱管内の差分結果により浸潤の疑いがある領域の可視化を支援
(画像は研究中のもの)
図)脊椎の転移性骨腫瘍のCT差分画像
a. 前回のCT画像。
b. 今回のCT画像。
c. 今回と前回のCT画像を用い,脊柱管内の差分領域を表示。
d. 撮影範囲全体の椎体での解析結果を一覧表示。
展望
今回得られた知見や技術を応用することで,脊髄圧迫のリスクが高い転移性脊椎腫瘍の診断が容易になった場合,がん患者のQOLの維持,さらには積極的ながん治療継続の助けに繋がることが大いに期待される。今後,キヤノンメディカルは,本サービスの社会実装に向けて,本技術を搭載した製品の早期市場導入を目指す。
用語解説
注1 パフォーマンスステータス(PS)
全身状態の指標の1つで,がん患者の日常生活の制限の程度を示す。脊髄の圧迫が生じるとPS3-4の状態となり,自立歩行は困難で,ほとんどの時間をベッド上で過ごすことが多くなる。
0: まったく問題なく活動できる。発症前と同じ日常生活が制限なく行える。
1: 肉体的に激しい活動は制限されるが,歩行可能で,軽作業や座っての作業は行うことができる。例:軽い家事,事務作業
2: 歩行可能で,自分の身のまわりのことはすべて可能だが,作業はできない。日中の50%以上はベッド外で過ごす。
3: 限られた自分の身のまわりのことしかできない。日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす。
4: まったく動けない。自分の身のまわりのことはまったくできない。完全にベッドか椅子で過ごす。
以上はECOG(米国の腫瘍学の団体の1つ)が定めた指標を日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)が日本語訳したもの。
(がん情報サービスより引用)
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国立研究開発法人国立がん研究センター
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キヤノンメディカルシステムズ(株) ヘルスケアIT事業部
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国立研究開発法人国立がん研究センター
中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科/東病院 骨軟部腫瘍科
中谷文彦
電話番号:04-7133-1111(代表)
Eメール:[email protected]
中央病院 放射線診断科
三宅基隆
電話番号:03-3542-2511(代表)
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